AIを活用した故障予兆検知システムとは? 導入メリット・活用事例など
カテゴリ:基礎知識
近年、製造・生産現場で機械や設備の故障・障害を未然に防ぐために、AIを活用した故障予兆検知システムの導入が増えています。これまで人の手で行われていた保全業務をAIで一部または全てを代替することで、どのような恩恵が受けられるのでしょうか。
今回は、AIを活用した故障予兆検知システムとはどのようなものなのか、その導入メリットや活用事例について詳しく紹介していきます。
故障予兆検知システムとは
故障予兆検知システムとは、製造・生産現場で機械や設備が故障(または停止)する兆候を事前に検知するための仕組みです。
例えば、センサーやPLCなどから収集される、温度・圧力・流量・電流値・振動・音響・映像といった測定要素において、閾値を超えた際に検知し何らかのアラートを発出するものが一般的なルールベースによる故障予兆検知システムです。
さらに近年では、AI(人工知能)や機械学習を活用し、各データの相関性や動きの特徴量を素早く導き出し、ルールベースでは発見できない未知の異常をも検出できるAI異常検知システムの導入が進んでいます
故障予兆検知システムの導入メリット
では具体的に、故障予兆検知システムを導入することで、企業はどのような恩恵が受けられるのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
故障や障害を未然に防げる
機械や設備の故障・障害の予兆を事前に検知することで、その異常箇所を特定し、必要なメンテナンスや修理を施すことで、急な故障や障害を未然に防ぐことが可能となります。
故障や障害が発生した際に迅速に対応できる
未然に防ぐことができるのがベストではありますが、実際に故障や障害が実際に起きてしまった際にも、その直前で異常の検知ができていれば、初動の動きが変わってきます。
また過去に蓄積されたデータから、故障や障害箇所を素早く特定するといったことにも繋がり、その場で迅速に対応ができます。これらにより万が一、故障や障害が起きてしまった場合にも、その範囲や影響を最低限に食い止めることが可能です。
現場保全担当者の負担が軽減する
故障予兆検知システムを導入することで、現場の保全担当者の業務の負担を軽減することができます。停止または故障リスクの高い機械・設備からAIを活用し、日々の監視を自動化したり、急な異常検知をリアルタイムに知ることで現場負担は大幅に減少できるでしょう。
TBM→CBMに変わることでの一部コスト削減
近年予知保全の業務も、従来のTBM(スケジュールでの定期メンテナンス)から、AI技術を取り入れたCBM(必要に応じたメンテナンス)に変わりつつあります。
TBMの仕組みは設備や機械の状態にかかわらず、半年・一年といった一定期間ごとにメンテナンスを行い部品交換や修理を行うため、過剰なコストが発生するといったデメリットがあります。一方CBMは、機械や設備のコンディションに応じたメンテナンスのため、従来当たり前に必要だとされてきたコストを削減できる可能性を持っています。
現場の勘やコツの一部を定量化できる
故障予兆検知システムを活用すれば、熟練の担当者だけが持っている感覚だけに頼ることなく、現場での異常を捉えることができます。また異常が発生した際の各種センサーデータ等の動きの特徴や相関性などを定量的に表現できるため、現場で属人化している暗黙知を一部形式知化することが可能となります。
このように、製造・生産現場において故障予兆のための異常検知システムを導入することで、製造業が抱えてきた様々な課題にアプローチすることが可能となるのです。
AIによる故障予兆検知システムの活用事例
では実際に、AIによる故障予兆検知システムを導入し、現場の業務効率化や様々なリスクに備えている企業の活用事例をいくつかご紹介いたします。
株式会社アイシン:エッジを活用したシームレスな予知保全システムにAIを採用
不動の世界ナンバーワンATメーカーとして、世界の自動車メーカーから高い信頼を得る株式会社アイシン様では、工場のラインに設置されたセンサーデータから、定常状態をサーバで分析・学習を行い、判断ロジック、及び、学習モデルをエッジ側へ配信する仕組みをAIによって開発されました。
これにより、予知保全に不可欠な即時性をエッジ側で担保し、加えて、高い拡張性と可用性を実現しながら、更なる改善を支援する柔軟な予知保全環境を実現されています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#aisin
ナブテスコ株式会社:風力発電機の旋回装置における故障予兆検知
モノを”動かす・止める”モーションコントロール技術を強みに、幅広い分野の発展に貢献するナブテスコ株式会社様では、風力発電機の保守を目的に、風力発電機ヨー旋回部の故障回避・状態監視機器「CMFS」を自社で開発。
同製品のデータ分析にAI異常検知システムを採用し、風力発電機の故障回避や延命化に役立てられています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#nabtesco
ヤンマー株式会社:内燃機関の予知保全
内燃機関、農機、建機、小型船舶などの製造・販売を行うヤンマー株式会社では、内燃機関の予防保全に向け、多種多様なセンサーデータ、機械学習を活用した先進的なクラウド基盤を構築。また異常検知のプラットフォームとしてAIを活用されています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#yanmer
株式会社竹中工務店:タワークレーンやエレベータの予知保全
1610年の創業以来、時代を象徴する建築物を数多く手掛けている株式会社竹中工務店では、建設現場のワークライフバランス向上を実現するため、タワークレーン、工事用エレベータなどの建設機械の異常検知にAIを活用されています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#takenaka
日東電工株式会社:検査工程で測定・管理している製品特性の異常予知基盤
おむつからジェット機まで、幅広い分野で数々の世界トップシェア製品を作り出している日東電工株式会社では、製品の検査工程で測定・管理する特性について、それが異常となることを事前に予知する手段をとしてAIを利用しています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#nitto
株式会社オプテージ:通信障害(サイレント障害)の故障予兆検知
関西を中心とした通信インフラを支えている株式会社オプテージ(旧:株式会社ケイ・オプティコム)では、ネットワークの品質維持や向上のために、AIや機械学習を活用したネットワークの異常検知の取り組みに着手されています。
従来の閾値監視では発見が困難であった通信障害「サイレント障害」の解決に取り組まれています。
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/case/#kopt
ご紹介した事例は、弊社ブレインズテクノロジーが提供するAI異常検知ソリューション「Impulse」を導入していただいている企業様のユースケースとなり、公開できる一部のみとなっています。
上記事例の詳細はその他ユースケースのご紹介については、製造業向けAI事例集をご用意しておりますので、ぜひダウンロードいただけますと幸いです。
▼製造業向けAI事例集のダウンロードはこちら
https://info.brains-tech.co.jp/doc/impulse_usecases
故障予兆検知システムの導入に向けたハードル
今回ご紹介したような、故障予兆検知システムの導入を検討する企業は年々増えています。しかし、実際にシステム導入を実現するには、いくつか超えるべきハードルをクリアしなければなりません。
導入ハードルを知っておくことで、自社内で故障予兆検知システムを実際に検討する際に考慮すべき事項として役立ちます。いくつかその代表的なものをご紹介します。
- 異常時のデータが収集できない
- システム導入による費用対効果への理解が得られにくい
- 現場の理解が得にくい
異常時のデータが収集できない
機械や設備は、故障してしまうと甚大な損失を被ってしまいます。しかし実際にはこうした故障やトラブルが起きることは稀であるため、異常時のデータが収集できず学習が行えないのではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。
弊社が提供する異常検知ソリューション「Impulse」の場合は、正常稼働時のデータを2~3か月程度学習させることで、それを基に各種データの動きの特徴量やその相関性を捉えています。
またさらに検知精度を上げるために異常データをあえて擬似的に作成し、AIに学習させてモデル(解き方)精度を高めていくことも可能です。
システム導入による費用対効果への理解が得られにくい
リスクマネジメントの観点から故障予兆検知システムを導入する企業は多いと思います。しかし、こうした故障予兆検知システムは、直接の売上が見込めるような攻めのシステム導入ではなく、リスクに備えた守りのシステム導入となることから、追加での予算が企業によっては通しづらいという側面もあるでしょう。
しかし、下記のような項目を実際に算出してみると、それなりに費用対効果が高いものだと分かると思います。
- チョコ停やドカ停が起きた際の損失額
- サービスが停止した場合の損失および信頼の失墜コストの算出
- 保全にかかる人件費の一部コスト削減
- 定期メンテナンス(TBM)からの切り替えによるコスト削減
必要なコストだと説得し、社内での理解が得られるのであれば、システム導入の検討は前向きに進むはずです。
現場の理解が得にくい
故障予兆検知システムの導入は、企業によっては社内文化やそれに携わる人からの理解が得にくい可能性があります。現場担当者の中には、AIシステムの導入により自身の仕事の一部または全部が奪われてしまうのではないかと不安に感じる人もいるからです。
そのため、こうしたシステムの導入を検討するにあたっては、現場担当者へのアプローチの工夫が必要となります。
例えば、AIの導入が現場の仕事を奪うのではなく、普段の業務の負担を軽減するものであるという点を強くアピールするなどが重要です。また、多くの企業でAI導入が進んでいる実情や、先進的な取り組みを一緒に社内で成功させることでのメリットを伝えるなど、周囲を巻き込みながら進めていくと良いでしょう。
またいきなり大きな風呂敷を広げすぎず、まずはスモールスタートで社内に小さな実績を作りながら推進していくことも効果的です。
まとめ
今回は、故障予兆検知システムとはどのようなものか、そして導入メリットや具体的な活用事例についてご紹介しました。
AIによる故障予兆検知システムを導入することで、故障や障害を未然に防ぐだけでなく、実施にそれらが発生した際の迅速な対応にも繋がります。また現場の省人化やメンテナンスコストの削減なども可能にします。
一方で、費用対効果の算出が難しかったり、現場の理解が企業によっては得にくいという側面もあり、担当者の導入に向けた強い意思と経営層の理解が重要となってきます。
今回の内容をぜひ参考にしていただき、貴社の課題解決が実現できれば幸いです。弊社は故障予兆や予知保全の分野で10年以上AIに取り組んできた企業です。異常検知ソリューション「Impulse」にご関心がございましたら、ぜひ一度お問い合わせいただければ幸いです。
▼異常検知ソリューション「Impulse」公式製品サイト
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/