スマート保安とは?経済産業省のアクションプランと最新AI活用事例

カテゴリ:活用事例

スマート保安とは?経済産業省のアクションプランと最新AI活用事例

スマート保安とは、国民と産業の安全確保を目的に、官民が一体となって行う産業保安への取り組みとして政府が提唱する概念のこと。

経済産業省は、AIやIoTといった先進技術を駆使し、産業保安に関する安全性や効率性を高める「スマート保安」を推進しています。

スマート保安の推進によって、生産現場における設備の老朽化やプラント設備における労働者の技術承継の問題解決にも効果を発揮します。

今回の記事では、スマート保安とはどういうものなのか、また経済産業省が掲げるスマート保安の具体的なアクションプランについて、最新のAI活用事例なども交えながらご紹介していきます。

スマート保安とは

スマート保安とは

スマート保安とは、国民と産業の安全確保を目的に、官民が一体となって行う産業保安への取り組みとして政府が提唱する概念のこと。

昨今急速に進むITの技術革新やデジタル化の推進に加え、少子高齢化が深刻化しており労働力不足が課題となっている中、官民連携によってAIやIoTといった新技術で産業保安を実現することが求められています。

石油・科学、電力ガスといった産業エネルギー関連のインフラは、設備の高経年化や人材の高齢化、慢性的な人員不足、技術伝承の問題などもあり、構造的な課題解決や環境変化への対応が必須です。

このような課題に対応するため、経済産業省は産業保安力の強化方針として、各種保安業務にAIやIoTを活用する新技術の実証や、技術活用を促す規制改革を進めています。また企業側は、産業の安全性の向上および人的作業を補完できる各種技術の導入や、現場の創意工夫によって産業保安力や生産力の向上が期待されています。

2020年6月には「スマート保安官民協議会」が経済産業省によって開催されましたが、スマート保安についての具体的な取り組みとして、以下の4つが挙げられています。

  • 1.十分な情報やデータによる科学的根拠とそれに基づく中立・公正な判断を行うことを旨とする
  • 2.IoTやAIなど安全性と効率性を高める新技術の導入、現場における創意工夫と作業の円滑化などにより産業保安における安全性と効率性を常に追求する
  • 3.事業・現場における自主保安力の強化と生産性の向上を持続的に推進する
  • 4.規制・制度を不断に見直すことによって、将来にわたって国民の安全・安心を創り出す

※引用参照「経済産業省 スマート保安推進に向けた取り組み」(P6)
URL:https://www.fdma.go.jp/relocation/neuter/topics/fieldList4_16/pdf/r02/01/shiryou6-2.pdf

このように「スマート保安」の取り組みを通じて、安全性のさらなる向上、企業の保安力強化、生産性向上や競争力強化、国民の安全や安心向上を図ることを目指しています。

スマート保安の重要性

スマート保安の重要性

スマート保安が推進されている背景には、現在の日本社会を取り巻く環境の変化、さらには産業保安の現場課題、国民の安全確保や企業競争力の確保といったさまざまな課題があります。それぞれ具体的に見ていきましょう。

我々を取り巻く環境の変化

日本における多くのプラントといったインフラ設備は、戦後の高度経済成長期に設立されて以降、大幅に刷新されていないものが数多く存在します。また、これまで産業保安を支えてきたベテラン労働者の多くが定年退職をする年代に差し掛かり、人員不足が加速していることも課題として挙げられます。ほかにも、気候変動による自然災害増加といった環境変化も、インフラ設備の劣化等に影響があるのではないかとささやかれています。

産業保安現場が抱える課題の顕在化

老朽化したインフラ設備は故障や不具合が起こりやすい状態にあり、修繕にかかるメンテナンス費用などもかさむことが想定されます。また、古い設備であればあるほど修繕を行える人材がベテラン労働者のみであるケースも少なくなく、産業保安に関わる人材の確保や技術承継も大きな課題となっています。

国民の安全確保や企業競争力の確保

老朽化したインフラ設備で働く労働者の安全確保のために、スマート保安の推進が急務です。たとえば、IoTやAIによる故障予測が実現できれば、適切で無駄のないタイミングでの設備メンテナンスを行うことが可能となります。

さらに、労働力不足による問題では、これまで人間の手で行っていたメンテナンスや検査業務をIT技術にて効率化し、現場の負担を一部低減することができます。また、これまで担当者が感覚的に行ってきた業務をデータ化・可視化することで、暗黙知となっていた技術の承継も可能となります。

海外・国内におけるスマート保安の推進状況

海外・国内におけるスマート保安の推進状況

スマート保安は日本だけのものではなく、世界各国でも推進されている取り組みです。

経済産業省は2022年3月に株式会社三菱総合研究所が作成した「令和3年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業(産業保安のスマート化に関する海外動向調査等事業)」を公開していますが、この中にはいくつかの国の海外事業者へヒアリングを行い、スマート保安の現状取り組み状況を挙げています。

※引用参照「三菱総合研究所 令和3年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業」
URL:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/000001.pdf

ここからは、上記資料を読み解きながら、各国におけるスマート保安はどのような施策が行われているのか、また現時点における日本国内でのスマート保安の推進状況についても見ていきます。

海外での推進状況

「令和3年度石油・ガス供給等に係る保安対策調査等事業(産業保安のスマート化に関する海外動向調査等事業)」において、海外のスマート保安実態調査が行われたのは、インドネシアやインド、台湾、マレーシア、中国、サウジアラビアといった国々です。これら6か国のスマート保安推進状況は以下となっています。

インドネシア

  • 石油化学プラント会社では、自国内唯一のナフサクラッカーを保有、全部門統合でDX化の推進計画を策定
  • 製油会社では、設備転換にてIoT、センサーを導入

インド

  • 石油ガス会社では、国家政策としてカーボンニュートラルへ積極的な取り組みを実施
  • O&Mコンサルは、リスクマネジメントオペレーションやデジタル化を実施

台湾

  • 化学会社では、生産性向上や環境配慮、省エネ、脱炭素かへの取り組みを実施保守にAIやデジタルツインを導入
  • 電力会社では、発電所や送電線設備の保守点検において、国や教育機関と連携しAIやロボット、ドローン活用を実施

マレーシア

  • 発電所では、プラント遠隔監視システムやデジタルツインを構築プラン点検にはロボットやドローンを活用
  • 石油精製では、ドローンやロボット、AIを活用し、一元化されたモニタリングシステムによる遠隔操作対応を実施
  • 石油化学プラントでは、オペレーションマネージャーやドローン、ロボットを活用し、3Dプラントモデリングによって詳細仕様を確認可能に

中国

  • コンサルは、インダストリーセーフティと安全生産分野におけるコンサルティングを実施

サウジアラビア

  • O&Mコンサルは、従来型とは異なるスマート保安技術導入により設備点検を実施

総括

各国のスマート保安への取り組みは、生産性・安全性・効率性・コスト削減を総合的に判断し、スマート保安技術の導入に至っているようです。特に安全性の確保を重視し、最新技術を積極的に取り入れる企業が多く存在していることが見てとれます。

また、設備運転や保守を行う上での異常検知・定期点検等に、ドローンやロボットを導入したり、AIやデジタルツイン導入による設備全体の最適化、予知保全を図る企業も多いことがわかります。

一方、最新技術導入で社内バイアスや人材不足といった課題にも直面しており、採用や育成に苦労している現状があるようです。この点については、スマート保安を推進することでの技術力の低下に伴う現場感覚の不活性化が懸念されています。

国内での推進状況

一方、国内におけるスマート保安推進状況ですが、高圧ガス、電力、ガスなどの産業保安分野において、現在すでにスマート保安に向けた取り組みを実施する企業も多く存在しています。

経済産業省が2017年4月に発表した「スマート保安先行事例集」には、全25社ものスマート保安実施に関する事例が掲載されています。また、2022年に発表された「スマート保安先進事例集」には、全23社の先進事例が取り上げられており、各企業においてスマート保安に向けた取り組みが緊急課題であることが伺えます。

※「スマート保安先行事例集」(平成29年度)
参照URL:https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/smart_industrial_safety/jireisyu_h29.pdf
※「スマート保安先進事例集」(令和4年度)
参照URL:https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/smart_industrial_safety/jireisyu_r3.pdf

経済産業省が発表するアクションプラン

経済産業省が発表するアクションプラン

経済産業省は、スマート保安の具体的アクションプランを3つに分け、それぞれ「高圧ガス保安分野スマート保安アクションプラン」「ガス分野におけるスマート保安のアクションプラン」「電気保安分野スマート保安アクションプラン」を策定しました。

先ほど紹介した「スマート保安先進事例集」には、実際に企業が取り組むスマート保安のアクションプランや、スマート保安における期待効果について紹介されています。

経済産業省によるアクションプランの概要

各分野における実際のアクションプランについて、「スマート保安推進のための基本方針」のもと、官民それぞれの取り組みにおける指針が定められています。

高圧ガス保安分野のスマート保安アクションプラン

まず、高圧ガス保安分野のスマート保安アクションプランですが、スマート保安官民協議会高圧ガス保安部会において、経済産業省とプラントのスマート化を目指す企業が取り組むべき事項が整理されています。

具体的な官のアクションプランとしては、

  • 保安力の高度化に関する政策の基本的な方向性指南
  • 高圧ガス保安制度の技術対応に向けた総点検
  • 認定事業者制度の見直し
  • スマート保安機器の活用推進
  • AIの活用促進

などが挙げられています。

民のアクションプランとしては、

  • スマート化に向けた企業組織の変革
  • 情報の電子化
  • 現場作業効率化
  • 意思決定の高度化

が目指すべき目標となっています。

ガス分野のスマート保安のアクションプラン

続いて、ガス分野のスマート保安アクションプランですが、都市ガスやLPガス、コミュニティーガスといった事業分野ごとの相互参照により、分野全体の保安向上を目指していきます。

具体的な官のアクションプランとしては、

  • 省令や公示等で定めた技術基準に対し総点検を行い必要な見直し
  • ガス分野の新技術の洗い出し
  • 新技術の活用促進策

が挙げられています。

また民のアクションプランとしては、

  • 製造段階から消費段階に至るスマート保安導入
  • 業界自主基準化を図り、スピード感を持ったスマート保安技術を適用

といった内容が挙げられています。

電気保安分野のスマート保安アクションプラン

最後に、電気保安分野のスマート保安アクションプランですが、2025年をターゲットイヤーと考え、スマート保安の未来像やスマート保安を実現するためのポイントが整理されています。

その中で、官のアクションプランとしては、

  • 技術革新に対応した保安規制や制度の見直し
  • スマート保安促進のための仕組み作りおよび支援

を実施。

民におけるアクションプランとしては、

  • IoTやAI等の新技術の実証や導入
  • スマート保安技術を支える人材育成

が検討されています。

※「高圧ガス保安分野スマート保安アクションプラン」(10-17P)
参照URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/smart_hoan/koatsu_gas/pdf/action_plan.pdf
※「ガス分野におけるスマート保安導入に係る 進捗状況のフォローアップ」(2P)
参照URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/smart_hoan/gas_anzen/pdf/003_01_00.pdf
※「電気保安分野スマート保安アクションプラン」(5P)
参照URL:https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/smart_industrial_safety/action_plan_denki.pdf

各社・各団体のアクションプラン

各社・各団体のアクションプラン

ここからは、企業や団体が実施する具体的なアクションプランについて紹介していきます。

アクションプラン(高圧ガス)

ENEOS株式会社では、スマート保安に向けたロードマップを作成し、段階的なデジタル技術を導入することで、安全・安定操業や収益の最大化、業務効率化を実現して競争力ある製油所を目指します。具体的には、2025年にはAIやロボットによる操業支援、2030年には操業自動化、2040年には操業自立化を推進しています。

JSR株式会社では、強化学習型AIを使用したプラント制御技術を導入。プラント運転の俗人化排除や安定運転、省エネ、生産性向上に貢献。今後は事故やトラブル、ヒヤリ、クレームといった情報を一元化。利便性を高めて有効活用できる環境整備を推進し、類似事故やトラブル発生を防止し、保安力向上に注力していきたいと考えています。

アクションプラン(電力)

関西電力株式会社では、火力発電所の煙突内部の定期検査においてドローンを活用。このドローンは非GPS環境でも遠隔点検が可能であることや、大掛かりな事前準備が不要といった特徴があり、工期の短縮や点検費用の圧縮、安全性の向上などスマート保安推進に一役買っています。

中国電力株式会社では、IoTプラットフォームを活用した水力発電設備を導入。これまでは、異常検知にも現場に到着してから情報収集しなければならなかったため、原因分析に一定の時間がかかっていました。IoTプラットフォームの導入により、現場に行かなくても設備の状況把握ができるだけでなく、蓄積した過去データを活用した現状および長期トレンド分析が可能となりました。

アクションプラン(ガス)

東京ガス株式会社、東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社、株式会社ガスターは、ガス取り扱い施設における常時ガス漏洩監視システムを導入。このクラウドシステムにより、従来は検知できなかった場所のガス漏洩を検知でき保安品質が向上。さらには、漏洩場所の特定簡易化により、人件費の削減や危険地域での漏洩検査を不要とし、作業員の安全確保が可能となりました。

大阪ガス株式会社、株式会社ニシヤマ、株式会社システム計画研究所は、デジタルX線検査におけるAI活用の自動判定システムを導入。このシステムでは、微細な傷を高精度な検出を可能としており、検査時間の短縮(配管能率の向上)や人件費の削減を可能とするだけでなく、人材不足の解消にも効果を発揮しています。

上記のような、IoTやAIによる異常検知・予知保全・状態監視は、スマート保安推進の背景にある労働力不足や技術承継といった課題解決に大きく貢献すると期待されています。そのためには、現在まだスマート保安に取り組んでいない企業や団体も積極的に、新技術を導入できるような官による後押しも必要といえるでしょう。

AIを活用した予知保全・状態監視システム

AIを活用した予知保全・状態監視システム

弊社ブレインズテクノロジーが開発・提供する異常検知ソリューション「Impulse」は、機械や設備の故障予兆や日常点検、状態監視の自動化にご利用いただける、最新のAIシステムです。

機械学習技術の実用化を目的に、2014年市場に先駆けてリリースされ、数多くのお客様の「現場で鍛え上げられた」AIモデルを搭載し、高度な分析技術を持ったデータサイエンティストだけでなく、より幅広いユーザーが利用できるプラットフォームとして、機械学習技術を容易に導入・運用するためのアーキテクチャや機能が備わっています。

複雑で膨大なセンサーや音声や画像、動画などのデータを収集・可視化する基本機能に加え、従来の閾値ベースの管理では発見できない障害や故障予兆の検知、不良品の検出、作業工程の確認・分析、要因の追究など、これまで対応困難であった業務課題に対し、機械学習を武器に新たなアプローチが可能となります。

今回のテーマでもある、プラント設備などへの導入実績、活用事例も多数ございます。詳しくはお問い合わせください。

まとめ

今回は、スマート保安とは何か、経済産業省が掲げるスマート保安の具体的なアクションプランについてご紹介しました。

人材の高齢化や労働力不足、プラント設備の老朽化、技術承継力の低下など、これからの日本が直面する課題はもはや待ったなしです。スマート保安の推進は、これら企業が抱える課題の解決に貢献されるとともに、事業の継続を強固なものにしてくれます。

そのためには、IoTやAIといった新技術の導入をスムーズかつ柔軟に行えるITベンダーやソリューションの存在が欠かせません。

弊社ブレインズテクノロジーの提供する「Impulse」は、現場で取得した各種センサーデータ等を最新のAI技術によって多角的に分析・検知することによって、機械設備の不具合や故障に繋がる予兆を捉えられるようになります。

スマート保安が今後も推進されている今、現場の課題解決にぜひお役立ていただければ幸いです。ご関心ございましたら、ぜひお問い合わせください。

活用事例の記事一覧へ戻る