品質保証分野におけるAI活用事例&最新ユースケース
カテゴリ:基礎知識
人口減少による労働力の不足やライフワークといった価値観の変化などにより、企業ではいかにして業務の効率化を進めるかが課題となっています。特に製造業の現場では、従業員の高齢化が加速の一途をたどっており、事業の継続に向けた対策が求められています。
このような状況下から昨今、品質保証の分野において、AI(人工知能)やIoTといった技術を活用し業務の効率化を進める企業が増えています。今回は、品質保証をテーマに具体的なAIの活用事例や最新のユースケースについてご紹介していきます。
品質保証の役割と重要性
品質保証とは、自社製品が既定の品質を満たしているかどうかを検査したり、納品後もその品質に対して保証するなどといった一連の業務のこと。
具体的には、原材料の仕入れから製造工程の完了に至る品質の検査に加え、品質保証の根拠となるデータの調査・確認や、納品後に不良品が含まれていた場合のクレーム対応などもこれに該当します。
品質保証とよく混同されるものとして「品質管理」が挙げられますが、この品質管理は製造工程で不良品を出さないようにするため、あらかじめ品質を管理する業務を指します。
品質保証・品質管理ともに製品の品質基準を満たすよう、基準に達しない不良品を出荷しないことを目的とした業務ですが、品質保証が製造から出荷後に至るまで製品の品質をトータルで保証するものであるのに対し、品質管理は製造過程でいかに不良品の流通を防止するかといった管理や施策が求められるものとなっています。
品質保証分野におけるAI活用とは
昨今、品質保証の分野にもAI導入の波が押し寄せています。その背景としては、
- 少子高齢化による生産労働人口の不足
- 急激なAI技術の進歩
- 働き方改革に伴う業務効率化の奨励
などが挙げられます。
例えば、人による目視検査では、これまで検査員ごとの検査精度のバラツキや検査のスピードなどが課題とされてきました。しかし、AIによる外観検査を行うことで、人間が持つ高い検査精度に加えて、バラツキの少ない定量的かつスピーディな検査が行えるようになってきました。
このように検査の一部または全部をコンピュータによる自動化によって代替し、労働力不足や業務効率化に繋げようとする動きが活発化してきているのです。
もちろんこのようなAI技術は、外観検査に限られた話ではなく、機械や設備の故障予兆や稼働監視、作業員のポカヨケの仕組みなど、幅広いケースで活用され始めています。
品質保証分野におけるAI活用事例&ユースケース
では具体的にどのような場面で、製造現場でのAI活用が進んでいるのでしょうか。いくつか具体的なユースケースをご紹介します。
- 機械や設備の予知保全・故障予兆検知
- 生産工程のプロセス監視・傾向変化検知
- 製造時の不良・不具合発生の要因分析
- 設備設定・制御パラメータの最適化
- 組み立て作業における作業員の動作解析(作業分析)
- 検査工程のAI化(外観検査)
機械や設備の予知保全・故障予兆検知
工場で稼働する生産設備の予知保全・故障予兆検知といった分野にも、AIによる異常検知が行われています。
従来、生産設備の保全はTBM(Time Based Maintenance)や時間基準保全とも呼ばれる、設備の状態に関わらず一定期間ごとに点検やパーツ交換などのメンテナンスを行う方式が主流でした。この方式のメリットは、メンテナンス時期の管理がしやすく、生産計画などの予定が立てやすいという点です。
しかし、使用状況や設備によってはメンテナンスの頻度が過剰であったり、逆に足りないことから異常が発生するなどの課題も発生するなどのリスクも存在します。また、設備ごとの状態を把握して、それぞれに合せたメンテナンス計画を立てるのも現実的ではありません。
こうした課題に対して、AIを活用したアプローチに近年注目が集まっています。機械や設備ごとの特性に合わせた時系列データをセンサ等から収集します。(振動・圧力・温度・流量・電流..etc)。
収集したデータを基に、AIによって設備の状態を判定し、機器の異常やその兆候を検知するのです。これにより、本格的な異常や故障、機器の停止に至る前に点検やメンテナンスが行えるようになり、予知保全や故障予防検知が可能となります。
このように必要なタイミングで点検・メンテナンスを行う方式を、CBM(Condition Based Maintenance)あるいは、状態基準保全とも言います。AIによる異常検知の活用で、TBMからCBMへの切り替えが可能となるのです。
生産工程のプロセス監視・傾向変化検知
工場などの現場には多くの生産設備があります。これらの生産設備の監視には、振動や温度、圧力や負荷、電圧など設備に合わせた様々なデータを用いますが、多くの設備から複数のポイントで常時収集されたデータは非常に膨大な量になります。
また、正常に稼働する過去との比較や故障やトラブルに関連する各種データの相関関係といったものを考慮しながら多角的な分析を行うには、単に閾値で決められた判定ではなく、AIが欠かせません。
従来、人の目や分析に頼っていた設備の監視をAIによって分析することで、現場の負担を軽減し、さらに従来よりも多くのデータをリアルタイムに監視することにより、生産ラインの停止リスクを回避できます。AIによって設備を監視するという意味では、予知保全や故障予兆と似てますが、プロセスの監視や経口変化の検知では、膨大なデータのリアルタイム分析と監視がメインになります。
製造時の不良・不具合発生の要因分析
製造工程において不良が発生すると、仕掛品の破棄やラインの停止、不具合の原因の究明など、非常に多くの手間やコストがかかります。そのため、効率の良い生産を実現するためには、できるだけ速やかに不良・不具合発生の要因を発見できる体制にしておかなければいけません。
機械や設備に取り付けられた各種センサから得られるデータをAIによって分析することで、不良・不具合発生の要因を特定したり、早期に捉えることが可能となります。不良発生の初期段階や上流工程で不良を見つけられることができれば、その後の工程にムダをも防げます。
事例:東洋製罐株式会社様「缶製造ラインにおける缶ボディ成形工程での不良品検出」
設備設定・制御パラメータの最適化
生産設備や加工機械における各種制御パラメータの設定は、従来、熟練担当者による勘やコツに頼る部分が多いものでした。
しかし、AIによって機械の停止や故障に繋がる要因を分析することで、そうした制御パラメータの最適化が可能となります。熟練担当者の勘やコツといったものを形式知化し、より安定的な機械や設備の稼働を実現できるようになるほか、技術継承や業務の一般化にも役立ちます。
組み立て作業における作業員の動作解析(作業分析)
組み立て作業などにおける作業員の動作は、従来、指差呼称による管理や、サイクルタイムの分析といった方法で効率化が行われてきました。
近年のAI技術の発展により、作業員の骨格をカメラによって検知をし、その動作(動画データ)をもとに、作業の抜けや誤りを検出したり、作業者の作業姿勢に負荷がかかっていないかなどといった分析・判定が可能となっています。
また、熟練者の作業をAIによって形式知化することで、サイクルタイム短縮に向けた改善も可能となります。
検査工程のAI化(外観検査)
製造現場におけるAI活用で最も進んでいる領域とも言えるのが、外観検査への適用です。キズ・バリ・打痕・欠損・異物の付着などを、カメラから得られた静止画や動画データをもとに良品・不良品との判別を行います。
AI技術を利用しないコンピュータ判定(外観検査システム)なども盛んに行われてきた外観検査の領域ですが、AIを活用することで過検出を防いだり、わずかに変わる環境の変化に対応できたりなど、より実用性を持たせることが可能となってきています。
また、CADデータなどの3Dデータと実際の製造品を比較して不良を検出するなどの技術も登場しています。
導入コストの観点などから、検査員の目視(目視検査)で行われるケースもまだまだ多い分野ですが、AIの導入により、人的コストの削減だけでなく、検査の精度が上げられるほか、検査員による評価のバラつきを防いだり、トレーサビリティの確保などといったメリットにも繋がります。
今回ご紹介したものは、製造現場における代表的なAI活用の事例ですが、このほかにも様々なAI活用が行われています。
AI異常検知ソリューション「Impulse」を開発・提供する弊社ブレインズテクノロジーでは、定期的にこうしたAI活用の事例セミナーをオンラインにて開催しております。情報収集でも結構ですので、ぜひ定期的にご参加いただけますと幸いです。
品質保証の分野にAIを導入するメリット
さていくつか品質保証の分野における具体的なAIの活用事例を見てきましたが、AIを導入するメリットを改めて考えてみたいと思います。
具体的には、
などが挙げられます。これら4つについて詳しく見ていきましょう。
不良品の流出を防ぐ(検査・作業のバラつき抑制)
人の手による品質検査では、集中力の欠如や疲労に伴うヒューマンエラーの発生が避けられません。どんなに経験豊富な担当者であっても完全に作業ミスを無くすことは人間である以上不可能です。
その点、AIはコンピュータであるため、体調や精神面による影響を受けることがありません。検査や作業のバラつきが生じにくくなり、検査スピードも基本的には一定を保ちます。
検査の自動化による省人化・現場負担の軽減
AIの導入によって、様々な品質に関わる検査を自動化できます。人による目視検査では、複数項目を検査する際に膨大な時間がかかってしまいがちですが、AIを活用することで複数項目であっても同時での検査が可能となります。その結果、省人化が図れるだけでなく現場負担を大幅に軽減できる可能性があります。
サイクルタイム・タクトタイムの短縮
品質保証分野へのAI導入は、サイクルタイムやタクトタイムの短縮を可能にし、より多くの製品生産を実現するだけでなく売上・利益の拡大に貢献します。たとえば、検査の工程をインライン化し、同時にAIを活用しながら検査を自動化することで、生産効率を飛躍的に高めることが可能となります。
ベテラン作業員の技術承継
製造業におけるベテラン作業員のもつ経験や技能の承継は、多くの企業にとって喫緊の課題の一つです。これまでベテラン作業員が勘や経験で行っていたノウハウは属人化・暗黙知化されていました。
しかし、これではベテラン作業員が退職してしまうと品質保証が脅かされる事態になりかねません。その点、AIによって各種作業を自動化することで、ベテラン作業員のノウハウを分析モデルやその結果を可視化することで形式知化できるようになります。
品質保証のこれから
これからの日本の製造業に求められるものは、労働力に頼らずとも「高い品質要求に応えられる体制・組織づくり」ではないでしょうか。
顧客の品質に対する要求レベルは引き続き高いものを維持しなければならない一方で、企業が他社との生存競争に打ち勝つには、品質を担保しながら労働環境の整備や業務効率を高める工夫を見出していく必要があります。そのためには、AIやIoTの活用といった技術導入は避けられません。
しかし、企業によってはAI導入を検討しているにもかかわらずその予算を割くことができないなどの事情もあります。
総務省が発表する「情報通信白書令和4年版」によると、日本における2020年度のAI主要8市場(機械学習プラットフォーム、時系列データ分析、検索・探索、翻訳、テキスト・マイニング/ナレッジ活用、音声合成、音声認識、画像認識)の売上金額が513億3,000万円だったのに対し、2025年度には1,200億円に達すると予想されています。
その中でも、品質保証の分野に関連する機械学習プラットフォームは、2025年度の予測で200億円もの売上が見込まれており、各企業がこうした分野にAI技術を活用していくというシナリオが現実のものとして迫っているのです。
※引用参照 総務省「情報通信分野の現状と課題」
URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236910.html