知識の二つの側面である暗黙知と形式知が変換されるプロセス、SECIモデルとは?
カテゴリ:ナレッジマネジメント, 知識経営
更新日:2026年2月13日
SECIモデルとは、組織における知識創造を、共同化、表出化、連結化、内面化の4つの段階で説明する知識創造理論です[1]。
技術伝承の検討、研究開発における知識移転・知識共有の検討から、文書管理システムの導入、営業資料管理、生成AIの学習データ検討まで、ナレッジマネジメントの実践で幅広く利用されます。
生成AIの活用やAIエージェントの利用を検討する場合にも、SECIモデルを利用できます。企業の中の情報を知識創造に利用できるレベルに上げるためには、プロセス改善、環境の整備、リーダーシップの検討が必要です。
この記事は、これからSECIモデルを利用しようと考えている方に向けて、SCEIモデル、および、関連事項についてレビューをした内容です。以下は、野中郁次郎・竹内弘高(1996). 知識創造企業(新装版)[1] 、および、野中郁次郎・紺野登(1999). 知識経営のすすめ[2]を参照しています。
目次
SECIモデルの理解に必要な知識
SECIモデルは、暗黙知と形式知の4つの知識変換パターンを想定しています。4つのパターンとは、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)です。英語に訳した頭文字をとってSECI(セキ)と呼ばれています。
SECIモデルを理解するには、いつくかの前提知識が必要となります。SECIモデルを含む知識創造理論を提唱したのは日本を代表する経営学者である一橋大学名誉教授 野中 郁次郎 先生です。以下に、野中先生の文献を元に前提知識をまとめます[1][2]。
知識経営、もしくは、ナレッジマネジメントの実践は、意思決定力、イノベーション力、競争力などの組織能力の向上を目指します。能力向上や組織の成長をもたらす中心となるのが「知識創造」プロセスです。この知識創造プロセスは、暗黙知と形式知からなる相互作用で説明されています。
ここで、言葉の定義を示します。
知識
- 情報ではない。概念、ノウハウ、技術、方法論、視点・ビジョン、コツ・勘、個人のスキル、行動の指針、問題への施し方、判断や意思決定の基準、実践的方法。
- 個人や組織が認識・行動するための、道理にかなった体系・手順。いつでも正しいとは限らない。ある組織で正しい知識は、別の組織では正しくないかもしれない。
- 「人間の中にある面」と、情報のように「流通できる」面の二つがある。
- 「個人的で主観的」と「社会的で客観的」の二つの側面に分類できる。
暗黙知と形式知
知識が持つ二つの側面は、「暗黙の語りにくい知識」(暗黙知)の側面を「明示された形式的な知識」(形式知)に対するものとしています(哲学者のマイケル・ポラニー)。
暗黙知と形式知は、下表の特性を持っています。
| 暗黙知 | 形式知 |
|---|---|
|
|
ポラニーは、以下の有名な言葉を残しています。これは、生成AIの利用でも認識が必要と考えます。 ”We can know more than we can tell.” (我々は、語れる以上のことを知っている。)
暗黙知を理解し把握するには、客観化をする作業が必要となります。これが「語る」にあたります。しかし、人間は十分に語ることはできない、ということです。語ってしまうと過去の知識となり、必ずしも「今の」現場で正しいとは限らなくなる。暗黙知と形式知の両者を知識として捉える必要があると指摘しています。
暗黙知と形式知の関係は氷山とその一角に例えられます。企業内や企業間で知識を共有・活用するには形式知が有効です。その背後に暗黙知があり、知識自体の価値が形成されます。企業の知識の多くが暗黙知であり、それをどのように活性化し、形式知化し、活用するかのプロセスが重要です。
暗黙知と形式知は性質的には異なっていますが、補完し合う関係でもあります。知識にこの二つの側面があるために知識創造が可能となります。
暗黙知が形式知化される→他者の行動を促進する→その暗黙知が豊かになる→さらにそれがフィードバックされて新たな発見や概念につながる
暗黙知と形式知の組み合わせによって、4つの知識変換パターンが想定されます。
【図解】SECIモデル 4つのプロセス
SECIモデルは、知識の二つの側面である暗黙知と形式知が変換されるプロセスを表しています。
- 共同化:暗黙知から新たに暗黙知を得るプロセス
- 表出化:暗黙知から新たに形式知を得るプロセス
- 連結化:形式知から新たに形式知を得るプロセス
- 内面化:形式知から新たに暗黙知を得るプロセス

共同化 (Socialization)
知識創造において重要な、原体験の獲得が行われます。個人対個人による、対面での暗黙知のやり取りで、暗黙知が共有されます。
例:顧客や取引先との接触で新たな知識を体感する、経営層が現場を歩く(Management By Walking Around)、現場同士が交流する、ワイガヤ、OJT:観察/模倣/訓練
個人が心理的に個に閉じられていたり、個に閉じるような制約をしてしまうと、共同化は十分に行われません。
表出化 (Externalization)
暗黙知から新しい明確なコンセプトを創り出す表出化は、知識創造のキーと指摘されています。このプロセスには二つの因子があります。
1、自分自身の内に込められた暗黙知の表出
2、他者のイメージや思いを感じとって言語化や図像化する
例:「職人の手の感覚」を「設計図」という形式知に変換、成績トップの営業マンに「コツを教えて」と言っても「気合だ」「呼吸だ」としか言えない→チームで対話を行い、行動を徹底的に分析・言語化し「営業マニュアル」や「トークスクリプト」「チェックリスト」を作成
個人とチーム、個人と組織の相互作用関係が重要な手段となります。個人がチーム内で刺激を受けたり、チームの会議を通じて他者の思いや概念を共有します。メタファーとアナロジーの利用が効果的と指摘されています。
メタファー:あるものをシンボルとして思い描くことによって、別のものを知覚したり直感的に理解したりする方法。メタファーは、聞き手にあるものを別のものとして見るように要請することで、経験の新しい解釈を創り出す。メタファーにより、抽象的なコンセプトと具体的なコンセプトのようにかけ離れたコンセプト同士を心の中で次々と関連づけることができる。
アナロジー:二つの異なったものの間の構造的・機能的類似に注目することで未知の部分を減らし、メタファーに内在する矛盾を解消する。何かを説明したり理解したりするときに、すでに知っている似たような構造のものを借りてきて当てはめます。難しい概念や未知のものを、身近なものに例えて考える思考法と言えます。例え話と違うのは、構造(関係性)が似ている点に着目することです。
連結化 (Combination)
既にある形式知から新たな形式知を生み出します。他部門や外部から形式知の獲得も行われます。形式知の伝達と普及では、形式知の移転や共有にITが利用されます。文書や意味情報の共有時には、周辺の文脈を共有することが重要です。
例:教育・訓練、企業ビジョン/事業戦略の具体化
形式知の編集が行われ、新たな組み合わせを生み出します。チーム間、部門間での活動が基本です。
内面化 (Internalization)
形式知を暗黙知にするプロセスです。組織的に形式化された知識を個人が自分自身のものとして採り入れます。行動、実践、実験などを通じて会得します。
例:コールセンターシステムの利用(追体験)、文書化(体験を内面化し暗黙知を豊かにする)
個人やチームが創造した知識が組織的に正当化され、再びチームや個人レベルまで至ります。
SECIモデルのプロセスは、1回だけの回転ではなく、知識ワーカーやチームの業務において日常的に螺旋状に繰り返されることが重要です。継続的に知識創造が行われる原動力と組織の慣性を維持する必要があります。
また、SECIモデルは、組織内のプロセスの分析にも利用できます。チームの中の情報活用でボトルネックになっているのはどのプロセスか?どのプロセスに推進者を立てれば業務が充実するか?AIはどこに活用できるのか?などです。そして、ポラニーの言葉「我々は、語れる以上のことを知っている。」を忘れてはいけません。語ってしまうと過去の知識となり、言葉や数字で用言できる知識は、知識全体の氷山の一角であると指摘されていることを思い出しましょう。
SECIモデルの4つのプロセスのうち、最も容易かつ迅速に展開するのが形式知同士の組み合わせである連結化と言われています。ITを利用し、時間や場所の違いを超えて迅速に形式知同士を連携するには、組織横断的に情報共有・活用できるエンタープライズサーチの利用が有効です。
しかしながら、形式知との相互作用を担う暗黙知の役割が重要と指摘されています。形式知を内面化し、社内外での共同化、表出化を経て知識創造の螺旋を回転させるにはどうしたら良いのでしょうか?
「場」をいかにして作るか
知識創造の重要な概念に「場」があります。SECIモデルはナレッジマネジメントを構成する基本的成分であり、もう一つの成分が知識資産です。創造された知識がまた活用されるサイクルが回っている状態を生み出し、二つのプロセスを連動させるための媒介となるのが「場」という概念です。
例:会議室、セミナールーム、オンラインミーティングの部屋、顧客との打ち合わせ、懇親会、休憩室
個々人やチーム内で共有される場にいないとわからないような文脈、状況、場面、道筋、関わる個人間の関係性、これらが場において形成されることが知識の共有や創造に不可欠だと指摘されています。
組織は、この「場」のパターンをいくつもデザインし、それらを複合的に活用することが知識創造につながると考えられます。
例えば、SECIモデルの4つのプロセスでは、各プロセスに適した「場」が分類されています[1][2]。
- 創発場:共同化に対応。経験、思いなどの暗黙知を共有する場。個と個の対面、共感、経験共有。時間・空間の同時性がある。対面する個と個の主客の一体化、相互に相手の内側に入り込んで我がことのように一体化する。
- 対話場:表出化に対応。チームの各自が暗黙知を建設的対話/ディスカッションを通じて言語化・概念化していきます。ミッションが必要です。メンバーは人選され、資源も投入して、権限委譲もされます。抽出された知識は、組織に展開されます。メタファーや概念抽出の方法論が使われます。
- システム場:連結化に対応。仮想空間上の場、イントラネットやグループウェアが利用されます。形式知を相互に移転、共有、編集、構築します。
- 実践場:内面化に対応。形式知を暗黙知として取り込んでいくための場。社内研修、会議室、OJT、お客様との打ち合わせ。単なる形式知の伝達ではなく、何らかの経験的要素や人間的要素の提供がなければ、暗黙知としての移転にならない。
このような場のパターンをITツールを使って創り出す試みもされています。当社では、エンタープライズサーチによる社内情報格差/情報検索の非効率性の解消、イノベーションのためのコラボレーションプラットフォームの導入によるチームミーティングの改革、チームメンバーとの定期1on1の実施、などの取り組みを進めています。
下図は、当社における場の活用の概念図です。

- (近日公開予定)24年前のナレッジマネジメントの資料に学ぶ:場に求められる条件とは?現代に求められる組織風土改革とは?
- (公開予定)コラボレーションプラットフォームの導入によるチームミーティング改革の例
- (公開予定)人的資本経営で見直される1on1の実践
企業におけるSECIモデルの利用例
SECIモデルはナレッジマネジメントの研究において頻繁に利用され、「本研究では、知識創造理論であるSECIモデルを活用し、xxxxにおける技術伝承プロセスの課題を理論的に捉える」などの文書で利用されています。研究でなくとも、企業の中でも気軽に利用することができます。当社における利用例を紹介します。
当社の営業資料の改善サイクルにおけるSECIモデル利用例
この事例は、当社のNeuronESの製品紹介資料などの営業資料の管理にSECIモデルを利用している例です。
当社では、お客様向けに利用している営業資料をバージョン管理し、営業の対応の標準化を図っています。しかし、日々のお客様対応の中で、お客様からいただくご質問や資料で説明が足りない内容が出てきます。個人がお客様対応で体験したことを資料として共有しても、他のメンバーがその資料を利用するのは個人の裁量に任されていました。そこで、SECIモデルを利用して検討し、連結化に推進者を立てました。個人が作成した資料や修正要望は、チームメンバー内でレビューされた後に、連結化の推進者が既存資料に反映し、反映内容の背景や意図をメンバーと共有するにようにしました。
下記の図では、下記となります。
- 個人が体験した内容を「個人が資料作成」する
- 個人が考える改善内容が「組織内で共有」されレビューされる
- 連結化推進者が既存の営業資料に反映し、営業ミーティングで共有する(利用例を共有)
- 各自が営業活動で利用する。Webサイト上にも反映される。(営業プロセスに取り入れる)

大変シンプルな事例ですが、SECIモデルを使って資料の改善サイクルのボトルネックがどこかを検討し、推進者をどこに置くのが効果的を検討した例です。このような改善サイクルがあった上で、営業資料をナレッジとしたAIの活用を検討できると考えています。
その他にも、SECIモデルの利用例は下記のような内容が考えられます。
- 若手技術者の暗黙知獲得(準備中)
- 研究開発部門における職場学習(準備中)
ナレッジマネジメントの実践における課題
ご紹介したSECIモデルですが、実際に取り組むにあたってはいくつか課題となる点も存在します。それは、野中・安倍(2013)が指摘する知の継承を進める中で生じる誤解と共通点があると考えられます[3]。
| 1 | 経験を積めば知の継承が出来る(誰でも教えれば習得できる) |
|---|---|
| 2 | 熟練者(伝承者)は、積極的に知の継承を支援してくれる |
| 3 | 若手(継承者)は、意欲的に知見・ノウハウを吸収する |
| 4 | 仕組み(ナレッジDB、マニュアル)を作れば、後はうまくいく |
| 5 | 職場は、知の継承の取り組みを理解しサポートしてくれる |
野中・安倍(2013)は、5つの課題について、富士通グループでの取り組みを元に対応ポイントを紹介しています。この内容も参考にして、各社にあった工夫や場のデザインを検討するのはいかがでしょうか。
そして、何よりも、トップやミドルマネジメントが組織的知識創造を最大化するための経営プロセスを取り入れることが必要となります。知識創造理論では「ミドル・アップダウン」モデルが提案されています。
まとめ
SECIモデルは、知識創造理論において、暗黙知と形式知の知識変換プロセスを示しています。企業の情報活用の検討では、課題を理論的に捉えるために利用することができます。
AI活用の検討においても、知識には暗黙知と形式知の2つの側面があること、暗黙知と形式知の関係は氷山とその一角に例えられること、そして、ポラニーが残した「我々は、語れる以上のことを知っている。」は記憶に値します。
ナレッジマネジメントの実践においては、ITツールの導入だけでなく、組織風土の改革が不可欠であると指摘されています。人的資本経営が注目を集めていますが、それすらも人事システムの導入によるスキルの可視化、エンゲージメントの向上といった短期的に結果が見えやすい内容に目が向きがちです。現場の人材から50歳以上の管理職を含めたあらゆる人財を活かすための「場」の作り方、チームや組織の情報活用の非効率性の解消、知識創造のためのマネジメントスタイルの導入等、イノベーションが起きる組織に変革するための投資がされるにはどうしたら良いでしょうか?
今後も、お客様のDXの取り組みにおけるAI活用、ナレッジマネジメントの実践によるイノベーションが起きる組織への変革に貢献できるコンテンツの提供を目指します。
参考文献
[1] 野中郁次郎・竹内弘高(1996). 知識創造企業(新装版). 東洋経済新報社
[2] 野中郁次郎・紺野登(1999). 知識経営のすすめ. ちくま新書
[3] 野中 帝二・安部 純一(2013). 組織における知の継承−知の継承における五つの誤解 特技懇誌 2013.1.28. no.268. 特許庁技術懇話会
関連ページ
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> セミナーアーカイブページ
著者
柳澤政夫
NeuronES事業開発室 室長
Neuronのマーケティング、インサイドセールス、パートナーデベロップメント、新規事業を担当し、伴奏支援者としてお客様対応も行う。化学企業、日本マイクロソフト、アマゾンウェブサービスジャパンなどに勤務。オンラインセミナー「はじめての生成AI」「生成AIで革新するナレッジマネジメント」を主宰。MBA(Finance)、中小企業診断士、日本ナレッジ・マネジメント学会会員
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