ナレッジ共有を成果につなげるには? 管理職が整えたい「気づき」が生まれる組織のつくり方
カテゴリ:ナレッジマネジメント
更新日:2026年3月13日
ベテランの知見がチームにうまく残らない。
会議をしても、その場の議論で終わってしまう。
部門ごとに情報が分かれ、学びが組織全体に広がらない。
こうした悩みは、多くの企業で共通しています。特に、業務の専門化や分業が進むほど、現場で得られた知見や小さな気づきは、個人の中にとどまりやすくなります。
しかし、業務改善や人材育成、そして組織としての競争力を高めるうえで、こうした気づきを組織内で共有し、活用できるかどうかは重要です。
鈴木聡美・内平直志(2025)の研究では、化学メーカーの研究開発支援部門における調査を通じて、技能者の「気づく」能力は経験年数や学歴よりも 学習志向 と関係していること、さらに他者との共有を通じて学習が深まることが示唆されています[1]。加えて、業務の個業化が進んだ職場では、気づきの共有に難しさを感じる人が増えることも報告されています。
この示唆は、今の企業経営にとって重要です。気づきは、個人のセンスだけに依存するものではなく、 学び合える場や仕組みがあるかどうかで育ち方が変わる からです。
本稿では、この研究を手がかりにしながら、管理職・経営者の立場から「気づき」が生まれ、共有され、成果につながる組織づくりについて整理します。あわせて、当社が現場支援の中で重視している進め方や、社内検索をはじめとしたデジタル活用の考え方も紹介します。
目次
なぜ今、「気づき」が組織の力を左右するのか
「気づき」と一口に言っても、意味合いは一つではありません。
一つは、事実や変化にハッと注意が向くような、瞬間的な認識です。
もう一つは、経験や対話を通じて本質を捉え、行動や判断が変わるような深い学びです。
現場で起こる改善や、新しいやり方の発見は、こうした気づきの積み重ねから生まれます。ところが、気づきは本人の中だけにとどまっていては、組織の力にはなりません。共有され、解釈され、他の人の実践につながってはじめて、チームの成果に変わります。
従来は「経験を積めば自然と身につく」と考えられがちでした。しかし、研究が示すのは、経験の長さだけでは不十分だということです。重要なのは、経験から学ぼうとする姿勢と、他者との関わりの中で概念を更新していく環境です。
つまり、管理職・経営者が見るべきなのは、個人の能力そのものだけではありません。
気づきが生まれやすく、共有されやすく、活かされやすい組織になっているか。
そこに目を向ける必要があります。
気づきを増やすために必要な3つの条件
現場での実践や研究知見を踏まえると、気づきを組織の力に変えるには、少なくとも3つの条件が重要です。
1つ目は、個人の学習志向が育つこと。
2つ目は、他者と気づきを共有できる場があること。
3つ目は、個業化を乗り越え、チームとして学べる設計になっていることです。
以下、それぞれを見ていきます。
個人の学習志向をどう支えるか
研究では、学習志向は「自分の能力を開発、または検証しようとする個人的な性質」とされています。多くを学べる挑戦的な仕事を選ぼうとする姿勢、と言い換えてもよいでしょう。
この定義だけを見ると、学習志向は生まれつきの性格のようにも見えます。ですが、実際には職場の関わり方で変わる部分も小さくありません。
たとえば、ノーベル化学賞受賞者の田中耕一氏も、これからの時代は、働く人がやりがいを実感できるように、マネジメント側から働きかける必要があると語っています[2]。
管理職の役割は、「学ぶ人を選ぶ」ことではなく、 学びたくなる環境をつくること です。
1on1は、学習志向を支える対話の場になる
その実践の一つが1on1です[3]。
1on1というと進捗確認の場になりがちですが、本来は、本人が何に関心を持ち、どのような役割に意欲を感じ、どこで成長実感を持てるかを探る時間でもあります。
実際の現場でも、技術力を活かせる役割を示したことがきっかけで、学習意欲が高まり、勉強会への参加や資格取得に発展した例があります。さらに、学んだことを実務で試し、つまずきや成功を通じて理解を深めていく流れが生まれると、本人の中で「学ぶ意味」が具体化していきます。
ここで重要なのは、外発的な報酬だけに頼らないことです。もちろん制度設計は大切ですが、長期的に見れば、内発的な動機づけが継続的な学習を支えます。
その意味で1on1は、評価のための面談ではなく、 学習志向を支える環境づくりの一部 として位置づけるのがよいと考えています。
会議の設計を変えると、気づきは共有されやすくなる
学習志向を支えるもう一つの重要な場が会議です。
職場では、「こんなことを言ってよいのかわからない」「些細すぎるかもしれない」「一部の人にしか関係ない」と感じて、共有が見送られることが少なくありません。
しかし、本人にとって些細なことでも、別の部署や別の経験を持つ人には大きなヒントになる場合があります。問題は、共有する価値がないのではなく、共有しやすい場になっていないことです。
そこで有効なのが、会議中に振り返りの時間を設け、参加者全員が気づきなどを残せるようにすることです[4]。デジタルホワイトボードを使えば、発言が得意な人だけでなく、口頭では言いづらい人の考えも拾いやすくなります。さらに、付箋や投票機能を活用することで、関心の高い論点をその場で把握しやすくなります。
もちろん、付箋への書き込みだけで十分とは限りません。言語化しきれない部分は口頭で補足したり、必要に応じて1on1など別の場で議論することも必要です。
大切なのは、会議を「報告の場」だけで終わらせず、 小さな気づきをチームの知見に変える場 として設計することです。
気づきの共有を促進するには、学び合う文化が欠かせない
気づきの共有が自然に起こる組織には、共通点があります。
それは、学び合うことが特別な行為ではなく、日常の仕事の一部になっていることです。
この状態を考えるうえで参考になるのが、心理的安全性の議論で言われる「学習ゾーン」です。心理的安全性が高く、かつ業績基準も高い状態では、メンバー同士が協力し、互いから学びながら、複雑で難しい仕事にも取り組みやすくなります[3]。
経営者・管理職の役割は、単に雰囲気をよくすることではありません。
率直に話せることと、高い成果を目指すことの両方を成り立たせる環境をつくること です。
そのために必要な施策は、企業ごとに異なります。1on1が効く組織もあれば、会議設計の見直しが先の組織もあります。感謝を伝え合う文化づくりが有効な場合もあれば、チームのあり方そのものを見直す必要がある場合もあります。
重要なのは、場当たり的に施策を増やすことではなく、「自社では何が共有を妨げているのか」を見極めながら、学び合う土台を整えていくことです。
ANAホールディングスの事例が示すこと
そのヒントとして示唆に富むのが、ANAホールディングスの人的資本に関する分析です[6]。
同社の開示では、個人のスキル向上が、そのまま直接的に企業価値へつながるのではなく、間に「褒め合う機会」や「チームワークの高まり」があることが示されています[7]。
さらに、「感謝し褒め合う風土 → チームワーク醸成 → ノウハウ蓄積 → 業務改善 → 生産性向上」という流れが見える点も重要です[7]。
ここからわかるのは、ナレッジの蓄積は単なる情報管理の問題ではなく、文化とチームの問題でもあるということです。
企業が研修やリスキリングに投資することは大切です。ですが、学んだことが周囲と共有されず、仕事のやり方の改善に結びつかなければ、組織全体の価値には変わりにくいでしょう。
だからこそ、管理職・経営者には、個人のスキル支援だけでなく、 感謝・対話・チームワークといった土台づくり が求められます。
個業化を乗り越えるには、チームの設計が必要
学習志向がある人であっても、自分一人の経験だけでは限界があります。
だからこそ、他者の経験に触れ、そこから学べる状態をつくることが大切です。
この点で参考になるのが、Google の Project Aristotle です[8]。この研究は、効果的なチームに共通する条件を明らかにし、多くの組織に影響を与えました。
ここで重要なのは、「優秀な個人を集めれば強いチームになる」とは限らないことです。 成果を出すチームには、メンバーが安心して発言できること、互いに役割を理解していること、自分の仕事に意味を感じられることなど、複数の条件があります。
つまり、気づきの共有を進めるには、個人の努力だけでなく、 チームとして学べる構造 が必要です。
当社でも、チームの状態を可視化しながら、メンバー同士が率直に考えを共有できるワークショップを行っています。ここで重視しているのは、役職の有無ではなく、一人ひとりが自分らしいリーダーシップを発揮できることです。リーダーシップは役職のことではなく、「前に立つ勇気」「自分らしさを貫いて周りへ影響を与えること」「成功か・学ぶか。 「失敗」はない。」といった、日々のふるまいの積み重ねです[9]。
そのような状態が整っている組織ほど、気づきが増え、共有が進み、学習が加速しやすくなります。結果として、AI活用やDXのような変革テーマにも取り組みやすくなります。
ナレッジを成果に変えるには、社内に行き渡る仕組みが必要
ここまで見てきたように、気づきを組織の力に変えるには、場づくりや文化づくりが欠かせません。
ただし、それだけでは十分ではありません。
せっかく共有された知見も、必要な人に届かなければ、業務改善や学習にはつながらないからです。
現場ではよく、次のような状態が起きます。
- 会議でよい議論があっても、その後に参照されない
- ベテランのノウハウが文書やチャットに散在している
- 必要な情報を探せる人と探せない人で差が広がる
- 部門をまたいだ学びが起きにくい
こうした状態を改善するうえで、社内検索は単なる検索機能ではなく、 蓄積したナレッジを組織学習に変える基盤 として重要です。
情報検索の非効率や情報格差が減ると、必要な知見が現場に届きやすくなります。すると、個人が学びやすくなり、チーム内での会話も深まり、組織としての判断や改善の質も上がっていきます。
ナレッジマネジメントを定着させるには、「ためる」だけでなく「見つかる」「使われる」まで設計する必要があります。ここが整ってはじめて、蓄積された知識が意識を変え、技能に変わっていきます。
まとめ:管理職が整えるべきなのは、“気づきが流通する組織”である
気づきは、個人の中に生まれるだけでは価値になりません。
共有され、解釈され、他の人の行動に活かされてはじめて、組織の成果につながります。
そのために管理職・経営者が整えるべきなのは、次の3点です。
- 学習志向を支える対話があること
- 気づきを出しやすい場があること
- 蓄積された知見が社内で活用されること
1on1や会議、ワークショップ、そして社内検索は、それぞれ別の施策に見えるかもしれません。ですが本質的には、どれも 気づきが流通する組織をつくるための手段 です。
「ナレッジがたまらない」のではなく、「共有しにくい」「見つけにくい」「活かしにくい」状態になっていないか。
そこを見直すことが、組織学習の第一歩になります。
まずはここから:簡易チェックリスト
次の項目に、いくつ当てはまるでしょうか。
- 会議で出た気づきが、後から参照されにくい
- ベテランの知見が属人化している
- 部門をまたいだ学びが起こりにくい
- 1on1が進捗確認だけで終わっている
- 必要な情報を見つけられる人と見つけられない人の差が大きい
- ナレッジ共有の重要性は理解しているが、定着の方法がわからない
2つ以上当てはまる場合は、仕組みだけでなく、場づくりや運用の見直しが必要かもしれません。
お問い合わせでご相談いただけること
当社では、ナレッジ活用や組織学習に関する課題について、次のようなテーマをご相談いただけます。
- ナレッジ共有が進まない原因の整理
- 会議や1on1の見直しを含めた運用設計
- 社内検索を活用したナレッジ基盤の整備
- 属人化を減らし、学びが広がる組織づくり
- AI活用やDXを支える情報流通の改善
「ツールを入れるべきか」だけでなく、 自社では何が詰まりやすいのか、どこから手をつけるべきか という整理段階からご相談いただけます。
ナレッジの蓄積と活用を、単なる情報管理で終わらせず、組織の学習と成果につなげたい。
そのような課題をお持ちでしたら、お気軽にお問い合わせください。
参考文献/関連記事
[1] 鈴木聡美・内平直志(2025). 技能者の気づく能力を高める職場学習. ナレッジ・マネジメント研究, 23, 33-46
[2] ノーベル賞・田中耕一氏、働きがいを語る「好奇心だけでは続かない」(2025.10.14). 日経ビジネス電子版
[3] DX推進のための「本音が言える場」の作り方:人的資本経営で見直す1on1の効用
[4] ナレッジマネジメントに学ぶ組織風土改革:DXが進まない“本当の理由”と管理職の打ち手
[5] 全員参加でナレッジ共有する会議改革:DXのための「場」の作り方
[6] [第3回人的資本アワード]金賞ANA、人材価値と売上高・利益の関連を可視化. 2026.1.30. 日経ビジネス
[7] 統合報告書 2025. 2025年3月期. ANAホールディングス株式会社
[8] 「効果的なチームとは何か」を知る. Google re:Work
[9] 一条和生・細田高広(2025). 16歳からのリーダーシップ. 日本経済新聞出版社
著者
柳澤政夫
NeuronES事業開発室 室長
Neuronのマーケティング、インサイドセールス、パートナーデベロップメント、新規事業を担当し、伴走支援者としてお客様対応も行う。化学企業、日本マイクロソフト、アマゾンウェブサービスジャパンなどに勤務。オンラインセミナー「はじめての生成AI」「生成AIで革新するナレッジマネジメント」を主宰。MBA(Finance)、中小企業診断士、日本ナレッジ・マネジメント学会会員




